手付と契約解除|いつまで解除できるかと売主の注意点
- 手付解除とは、契約後に手付を使って契約をやめる仕組みです。買主は手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して解除できます。
- 相手方が契約の履行に着手した後は、解除できません。期限は日付ではなく、相手の行動で決まります。
- 売主側の「倍返し」は、口頭で伝えるだけでは足りません。条文は「現実に提供して」と定めています。
- 宅建業者が自ら売主となる場合、代金の額の10分の2を超える手付を受領できません。
- 手付解除とは別に、融資特約による解除があります。こちらは手付が返ってくる形で終わるため、売主にとって意味が違います。
手付と契約解除の関係とは、契約後に一定の期間まで、手付を使って契約をやめられる仕組みをいいます。手付とは、売買契約を結ぶときに買主から売主へ交付される金銭のことです。契約書に金額が書かれ、当日受け取ることになりますが、これは代金の一部であると同時に、契約をやめるための仕組みでもあります。売主として、いつまで解除され得るのか、逆に自分から解除するとどうなるのかを知っておく必要があります。本記事では条文にもとづいて整理します。なお、個別の契約については仲介会社と弁護士にご確認ください。
条文はこう定めています
手付による解除について、民法の定めは次のとおりです。
買主が売主に手付を渡したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約を解除することができます。ただし、相手方が契約の履行に着手した後は、解除できません。
短い定めですが、売主にとって重要な点が3つ含まれています。
- 買主は手付を放棄するだけで解除できる(払った分を諦める)
- 売主は倍額を現実に提供しなければ解除できない(受け取った額+同額)
- どちらも、相手方が履行に着手した後はできない
売主と買主で負担が違う点に注意してください。買主は預けた手付を放棄すれば済みますが、売主は受け取った手付を返したうえで、同額を上乗せして支払うことになります。
「履行に着手」が期限を決めます
実務でいちばん問われるのが、いつまで解除できるのかという点です。条文の答えは「相手方が契約の履行に着手するまで」です。
つまり、カレンダー上の期限ではありません。相手が何をしたかで決まります。そのため、契約書では手付解除の期限日を別途定めておくことが一般的です。当事者間で期日を決めておけば、着手したかどうかを争わずに済みます。
何をもって「履行の着手」とするかは、個別の事情によって判断されます。契約書に期限の定めがある場合はそれが優先的な目安になりますが、定めがないまま揉めると、着手の有無そのものが争点になります。契約時に期限を確認しておいてください。
売主の立場から見ると、この仕組みには2つの意味があります。ひとつは、買主に解除される可能性が一定期間残るということ。もうひとつは、自分から解除したくなっても、買主が動き出せばできなくなるということです。
「現実に提供」とは何か
売主が解除する場合、条文は「その倍額を現実に提供して」と定めています。ここは言葉どおりの意味です。
「返すつもりです」「倍額をお支払いします」と伝えるだけでは、解除の効果は生じません。実際に現金を用意し、相手が受け取れる状態にして示す必要があります。買主が受け取りを拒んだとしても、提供した事実があれば要件を満たします。
したがって、売主側から手付解除をする場合は資金の準備が先です。手付を受け取ったからといって使ってしまっていると、いざというときに解除できません。もっとも、売主から解除する場面は多くありません。契約した以上は進めるのが前提で、この規定は例外的な備えだとお考えください。
また、民法は、手付による解除には、解除とあわせて損害賠償を請求できるとする規定を適用しないとしています。手付解除の場合、別途の損害賠償は問題にならないという整理です。手付の額で清算が終わる形になります。
業者が売主・買主の場合の違い
宅建業法は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約について、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領することができないとしています。
さらに同法は、業者が自ら売主として手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであっても、買主は手付を放棄して、業者は倍額を現実に提供して契約の解除をすることができるとしています(相手方が履行に着手した後を除く)。
ここは整理しておく価値があります。
| 売主 | 手付の上限 | 解除の扱い |
|---|---|---|
| 個人 | 法律上の上限はない | 民法による |
| 宅建業者 | 代金の額の10分の2まで | 性質を問わず解約手付として扱われる |
ご自身が個人として売る場合、この2割の制限は適用されません。ただし手付が少なすぎると、買主が解除しやすくなります。放棄する金額が小さければ、やめる判断のハードルも下がるためです。
逆に高すぎれば、買主が用意できず契約自体がまとまりません。金額は、買主の資力と取引の確実性のバランスで決まります。仲介会社と相談しながら決めてください。
なお、買主が宅建業者である場合(いわゆる買取)は、この2割の制限は関係ありません。制限がかかるのは業者が売主となる場面だからです。買取では手付を入れずに進めることや、契約から決済までの期間を短くすることもあり、そもそも解除が問題になる余地が小さくなります。確実性を重視される場合の選択肢です。
手付解除と、融資特約による解除は別物です
売主として混同しないでいただきたいのが、融資特約(ローン特約)による解除です。
これは、買主が予定していた融資を受けられなかった場合に、契約を解除できるとする特約です。手付解除とは性質が違い、解除されると手付は買主へ返還されます。売主の手元には何も残りません。
| 比べる点 | 手付解除 | 融資特約による解除 |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法 | 契約で定めた特約 |
| 買主が解除したとき | 手付は売主に残る | 手付は買主へ返還される |
| 期限 | 相手方の履行の着手まで | 契約で定めた期日まで |
| 売主の立場 | 手付の額を得る | 何も得られず、振り出しに戻る |
収益物件では、買主が融資を使うことがほとんどです。融資特約の期限までは、契約が白紙に戻る可能性が残っていると考えておいてください。
この期間にほかの買主の検討を止めてしまうと、解除になったときに振り出しから始めることになります。融資の見込みについては、契約前に確認しておくことが実務上の備えになります。
確認のしかたは難しくありません。買主がどの金融機関に相談しているか、事前の審査を通っているか、自己資金はどの程度用意されているか。この3点が分かるだけで、見通しの精度は大きく変わります。仲介会社を通じて確認できますので、契約の前に聞いておいてください。
また、特約の期限が長すぎないかも見ておく価値があります。期限が先に設定されているほど、売主は長く待たされます。買主の審査の進み具合に合わせて、無理のない範囲で短く設定できないかを相談してみてください。
解除と違約は違います
もうひとつ区別が必要なのが、債務不履行による解除です。手付解除は正当な権利の行使であり、違約ではありません。
一方、代金を払わない、引渡しをしないといった約束の不履行があった場合は、違約の問題になります。契約書には違約金の定めが置かれることが一般的で、手付の額とは別の基準が適用されます。
- 手付解除 — 期限内なら理由を問わずできる。手付の額で清算される
- 融資特約による解除 — 要件を満たせば白紙に戻る。手付は返還される
- 債務不履行による解除 — 約束を破った側が違約金などを負う
売主として避けたいのは、3つめです。引渡しができない状態のまま契約してしまうと、自分が違約の側に回ります。相続登記が済んでいない、共有者の同意が取れていない、抵当権を抹消できる見込みがない。こうした事情がある場合は、契約の前に解消してください。
登記の状況は相続登記の義務化とは、共有名義の整理は共有名義の放置リスクと整理の進め方をご覧ください。
手付金等の保全という仕組み
買主の側から見ると、手付を渡した後に売主が倒れてしまえばお金が戻りません。そのため、宅建業者が自ら売主となる場合には保全の仕組みが設けられています。
宅建業法は、業者が自ら売主となる売買について、一定の措置を講じた後でなければ買主から手付金等を受領してはならないとしています。指定保管機関との間で保管を委託する契約を締結する方法などが挙げられています。
ただし、この規定にはただし書があります。買主への所有権移転の登記がされたとき、買主が所有権の登記をしたとき、または受領しようとする手付金等の額が代金の額の10分の1以下であり、かつ政令で定める額以下であるときは、この限りでないとされています。
ご自身が個人として売る場合、この規定は適用されません。個人間の取引では、こうした保全の仕組みが働かないということです。買主が慎重になるのは、この違いもあります。
売主としてできるのは、引渡しまで確実に進められる状態を整えておくことです。買主の不安が小さいほど、条件の交渉も進めやすくなります。
契約前に確認しておくこと
手付をめぐる条件は、契約書に書かれてはじめて具体になります。次の点は必ず目を通してください。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 手付の額 | 買主が解除しやすいか、取引の確実性に関わる |
| 手付解除の期限日 | 「履行の着手」を争わずに済む |
| 融資特約の有無と期限 | 白紙に戻る可能性が残る期間が分かる |
| 違約金の額 | 約束を守れなかった場合の負担 |
| 引渡しの時期 | 自分が履行できる日程になっているか |
2つめが抜けると、後から「まだ解除できるはずだ」「もう着手している」という争いになります。日付で決めておくのが、双方にとって明快です。
最後の項目も見落とされがちです。引渡しの時期は、買主の都合だけでなく自分が本当にその日までに準備を終えられるかで決めるものです。登記も、抵当権の抹消も、入居者への通知も、間に合わなければ困るのは売主の側になります。
受け取った手付は、使わずに置いておく
実務上の注意として、受け取った手付を引渡しまで手をつけないことをおすすめします。
融資特約で解除になれば返還することになりますし、自分から手付解除をする場合は倍額を用意しなければなりません。手元にないと、動けなくなります。
「契約したから入ってきたお金」と考えて使ってしまうと、取引が想定どおりに進まなかったときに困ります。引渡しが終わり、残代金を受け取ってはじめて、売却の資金として使えるとお考えください。売却全体の流れは福岡市の不動産売却ガイド、契約の入口は媒介契約の選び方で整理しています。
よくあるご質問
- e-Gov法令検索 民法(第557条第1項・第2項、第545条第4項)
- e-Gov法令検索 宅地建物取引業法(第39条第1項・第2項、第41条の2)
2026年9月21日時点の内容です。履行の着手の有無や特約の効力は個別の事情により判断が分かれます。実際の契約については、仲介会社および弁護士にご確認ください。
この記事をお読みの方へ
あなたの物件は、いまの相場でいくらか。
査定価格と「税引後の手残り」でお答えします。
代表・井口が直接対応します。しつこい営業はいたしません。
査定後に「持ち続ける」というご判断も歓迎です。