解体前のアスベスト事前調査|発注者が知っておく義務と費用
- アスベストの事前調査とは、解体・改造・補修を伴う建設工事の前に、特定建築材料が使われているかを調べる手続きです。調査を行うのは元請業者で、その結果を発注者へ書面を交付して説明する義務があります。
- 届出の対象になる工事では、作業開始の日の14日前までに都道府県知事への届出が必要です。この届出義務を負うのは発注者です。
- つまりオーナーは「業者に任せておけばよい」立場ではありません。調査結果の説明を受ける側であり、届出をする側です。
- 調査と、必要な場合の除去には費用と日数がかかります。解体費用の見積もりに含まれているかを、必ず確認してください。
- 更地にして売る計画では、この工程を見込んでいないと日程が崩れます。
解体前のアスベスト事前調査とは、建物を壊したり改修したりする工事の前に、石綿を含む建材が使われていないかを調べる法律上の手続きです。古い収益物件を解体して更地で売る。大規模修繕で外壁をやり直す。どちらの場面でも避けて通れないのが、アスベストの事前調査です。ここを知らずに見積もりだけで業者を選ぶと、後から想定外の費用と日数が乗ることになります。本記事では、誰が何をする義務を負うのか、オーナーとして何を確認すべきかを、法令の条文にもとづいて整理します。なお個別の工事については施工業者と行政にご確認ください。
事前調査は元請業者が行い、発注者へ説明します
大気汚染防止法では、建築物等を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事(解体等工事)の元請業者に、次のことが求められています。
その解体等工事が特定工事に当たるかどうかについて、設計図書などの書面による調査や、特定建築材料の有無を目で見て確かめる調査など、環境省令で定める方法で調査を行わなければなりません。あわせて、環境省令で定めるところにより、解体等工事の発注者に対し、定められた事項を書面に記載して交付し、説明しなければなりません。
読み取るべき点が3つあります。
- 調査は書面による調査と目視による調査の両方が求められている
- 調査を行うのは元請業者(発注者から直接請け負った者)
- 結果は書面を交付して発注者に説明しなければならない
ここで大事なのは、オーナーは説明を受ける立場だということです。口頭で「大丈夫でした」と言われて終わりではありません。書面を受け取っていないなら、それは手続きが踏まれていない可能性があります。
届出の義務を負うのは、発注者です
同法第18条の17第1項は、届出対象特定工事について、発注者又は自主施工者は、当該特定粉じん排出等作業の開始の日の14日前までに、都道府県知事に届け出なければならないとしています。
条文は届出事項として、発注者と元請業者の氏名・住所、工事の場所、特定建築材料の種類・使用箇所・使用面積などを挙げています。
この義務は施工業者ではなく発注者、つまりオーナーにあります。実務では業者が書類を用意して代行することが多いのですが、義務を負っているのは発注者だという点は変わりません。任せきりにせず、届出が済んでいるかを確認してください。
また、14日前という期限にも注意が要ります。「来週から解体を始めましょう」という段取りは、この工事では成り立ちません。売却の日程を逆算するときに見落とされやすい部分です。
| やること | 誰が | いつ |
|---|---|---|
| 事前調査 | 元請業者 | 工事の着手前 |
| 調査結果の説明(書面交付) | 元請業者 → 発注者 | 調査後 |
| 都道府県知事への届出 | 発注者 | 作業開始の14日前まで |
| 作業基準に沿った除去等 | 元請業者・下請負人 | 作業時 |
保有を続けた場合と売った場合を、同じ物差しで並べます
解体して更地にするか、そのまま売るか。調査と除去にかかる費用と日数まで含めて比べないと、判断を誤ります。ご相談は無料です。
見つかった場合は、作業の方法まで決まっています
同法第18条の19は、届出対象特定工事における作業について、除去などの措置を条文が定める方法により行わなければならないとしています。たとえば除去については、その特定建築材料をかき落とし、切断し、又は破砕することなくそのまま建築物等から取り外す方法などが挙げられています。
ただし条文には、建築物等が倒壊するおそれがあるときその他、これらの方法により行うことが技術上著しく困難な場合はこの限りでない、とするただし書も置かれています。
実務的な意味は明快です。アスベストが見つかれば、通常の解体とは工程も費用も変わります。飛散を防ぐための養生や作業方法の制約があり、工期が延びます。「解体費用一式」の見積もりだけで判断すると、後から追加になりかねません。
なお、労働者の安全に関する規制は厚生労働省の所管で、石綿障害予防規則などが別にあります。
築年数だけでは判断できません
「古い建物にはアスベストがある」という理解は、半分だけ正しいものです。使用されていた時期があるのは確かですが、建てられた年だけで有無は決まりません。
理由は、アスベストが使われていた建材の種類が多岐にわたるためです。吹付け材だけでなく、保温材、断熱材、内装材、屋根材、床材など、さまざまな部位に含まれている可能性があります。増改築を繰り返していれば、部位ごとに施工時期が違うことになります。
だからこそ、設計図書の確認と現地での目視の両方が求められています。「うちは大丈夫だと思う」という思い込みが、いちばん危ない判断です。
なお、調査の結果として使用が確認されなかった場合も、その内容は記録として残ります。売却の場面では、この書面が買主への説明材料になります。調査は費用ではなく、取引を進めるための資料と考えてください。
もうひとつ、オーナーの方が混同しやすい点があります。アスベストの規制は、環境への飛散を防ぐための大気汚染防止法と、働く人の健康を守るための石綿障害予防規則とで、別々に定められているということです。前者を所管するのは環境省と都道府県、後者は厚生労働省と労働基準監督署です。
つまり提出先も、求められる手続きも一つではありません。どちらも施工業者が実務を担う部分が大きいものの、発注者として全体像を知っておかないと、業者の説明が十分かどうかを判断できません。見積もりの段階で「どの法令に基づく、どの手続きをするのか」を確認しておくと、話が具体的になります。
近隣への配慮も忘れないでください。工事の掲示は法令や条例で求められる部分がありますが、それとは別に、隣接する方へ事前にご挨拶しておくと、工事中の申し入れや苦情を減らせます。収益物件の解体では、隣の建物との距離が近いことが多いためです。売却を控えているなら、近隣との関係を荒らさずに終えることも、結果として取引の安定につながります。
売却との関係で、どう効いてくるか
オーナーの立場からは、大きく3つの場面で関わってきます。
| 場面 | どう関わるか |
|---|---|
| 解体して更地で売る | 調査と届出、必要なら除去。費用と日数が上乗せされる |
| そのまま売る | 買主が解体を前提にするなら、その費用を織り込んで値付けされる |
| 大規模修繕をして持ち続ける | 外壁や屋根の改修でも、解体等工事として調査の対象になり得る |
見落とされやすいのが2番目です。そのまま売る場合でも、アスベストの存在は価格に反映されます。買主が事業者であれば、解体費用を見込んで買値を決めるためです。売主が調査をしていなくても、影響から逃れられるわけではありません。
むしろ、状況が分からないままだと買主は保守的に見積もります。「分からないから高めに見ておく」という判断が、そのまま価格の下げ幅になります。調査結果がある物件のほうが、交渉の土台が安定します。
解体するかどうかの判断そのものは老朽アパートは解体して更地で売る方が得かで、築古物件の出口全体は築古アパートの出口戦略で整理しています。
いま売るといくらになるのか、先に数字を出しておく
解体にどこまで費用をかけるべきかは、売却価格が分かってはじめて判断できます。無料査定で現在の水準をお出しします。無理におすすめすることはありません。
日程は、逆算して組む
売却の日程と工事の日程がぶつかるのは、たいてい着手の順番を間違えたときです。工程を並べると、必要な時間が見えてきます。
まず業者を選び、契約をします。次に元請業者が事前調査を行い、結果を書面で説明します。使用が確認され、届出の対象であれば、そこから作業開始の14日前までに届出をします。そのうえで工事に入り、除去が必要ならその分の日数が加わります。
この流れは短縮できません。とくに14日前という期限は、届出を済ませてから2週間待つということです。「見積もりを取ったら来月から着工」という感覚でいると、そこで止まります。
さらに、解体後に更地として売るなら、そこから建物の滅失登記、測量や境界の確認、売却活動の期間が続きます。逆算すると、着手から引き渡しまでは相応の期間を見ておく必要があります。納税の期限など、動かせない事情がある場合はとくに注意してください。
業者に確認しておくこと
見積もりを取る段階で、次の点を確認しておくと、後からの食い違いを防げます。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 事前調査の費用は見積もりに含まれているか | 別途請求になることがある |
| 調査結果は書面で交付されるか | 法律上、書面での説明が求められている |
| 使用が確認された場合、費用はどう変わるか | 着手後の追加を避けるため |
| 届出は誰が作成し、いつ提出するか | 義務は発注者にある |
| 工期は何日を見込んでいるか | 14日前の届出と作業日数で日程が決まる |
| 近隣への説明はどうするか | 工事中の掲示や周知が必要になる |
相見積もりを取る場合、調査や除去の扱いが各社でそろっていないと、金額を比べても意味がありません。安く見えた見積もりに調査費が入っていなかった、という食い違いはよく起こります。同じ条件で出してもらったうえで、内訳まで並べて比べてください。総額だけを見比べても、何が含まれているかは分かりません。
相続した物件は、資料から確認する
相続した建物では、設計図書がどこにあるか分からないことがあります。図面がなければ書面による調査ができず、現地の目視に頼る部分が大きくなります。
まずは購入時や建築時の資料が残っていないかを探してください。確認申請の書類、竣工図、修繕の記録。これらが揃っているほど、調査も工事も進めやすくなります。
相続した物件の売却では、登記の名義変更も並行して必要になります。期限は相続登記の義務化とはで整理しています。境界の確認とあわせて、早めに着手されることをおすすめします。詳しくは売却前の境界と測量をご覧ください。
よくあるご質問
- e-Gov法令検索 大気汚染防止法(第18条の15 事前調査と発注者への説明・第18条の17第1項 届出・第18条の19 作業基準)
- 環境省 建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル
- 厚生労働省 アスベスト(石綿)情報(石綿障害予防規則)
2026年9月15日時点の内容です。対象となる工事の範囲や届出の詳細は、工事の内容と地域によって異なります。施工業者および所管の行政にご確認ください。
この記事をお読みの方へ
あなたの物件は、いまの相場でいくらか。
査定価格と「税引後の手残り」でお答えします。
代表・井口が直接対応します。しつこい営業はいたしません。
査定後に「持ち続ける」というご判断も歓迎です。