老朽アパートは解体して更地で売る方が得か
- 建物を解体して更地にすると住宅用地の特例が外れ、土地の固定資産税の課税標準が上がります。
- ただし、放置して勧告を受けた場合も特例は外れます。持ち続ければ税負担が変わらない、とは限りません。
- 空家法では、指導・勧告の対象となる「管理不全空家等」と、命令や代執行まで進みうる「特定空家等」が定められています。
- 判断は、解体費用・税負担の変化・売却価格の差の3つを並べて比較します。建物を残したまま売る道も検討してください。
入居者が減った老朽アパートをどうするか。「解体して更地にしたほうが売りやすいのでは」というご相談を、たびたびお受けします。ただし、解体には費用がかかり、そのうえ税負担も変わります。感覚で決めてしまうと、あとになって想定と違った、ということになりがちです。本記事では、判断するために必要な材料を、順を追って整理します。なお本記事は一般的な説明であり、個別の税額や適用は市区町村・税理士にご確認ください。
更地にすると税負担が上がる
最初に押さえるのが、固定資産税の住宅用地の特例です。人の居住の用に供する家屋の敷地は、課税標準が引き下げられます。1戸あたり200平方メートル以下の部分は価格の6分の1、それを超える部分は3分の1です。
建物を取り壊すと、その土地は住宅用地ではなくなるため、この軽減が外れます。解体費用を払ったうえで、翌年から土地の税負担が増える——これが、解体をためらう最大の理由です。税の仕組みは固定資産税・都市計画税が収益物件の収支に効く仕組みで詳しく解説しています。
放置しても外れることがある
ここで見落とされやすいのが、建物を残せば必ず特例が続くわけではないという点です。地方税法の住宅用地の特例には、空家等対策の推進に関する特別措置法にもとづき所有者等に対し勧告がされた空家等の敷地を除く、という定めがあります。
つまり、老朽化した建物を放置して勧告を受ければ、建物が建っていても軽減の対象から外れます。「建物さえ残しておけば税金は安いまま」という前提は、成り立たない場合があるということです。
空家法では、市町村長は、適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にある空家等を「管理不全空家等」として、必要な措置をとるよう指導できるとされています。指導をしてもなお改善されず、特定空家等に該当するおそれが大きいと認めるときは、具体的な措置について勧告することができます。
段階と、その先
空家法が定める手続きは段階を踏みます。整理すると次のとおりです。
| 段階 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 指導 | 管理不全空家等 | 特定空家等になることを防ぐ措置をとるよう指導 |
| 勧告 | 管理不全空家等 | 改善されない場合、具体的な措置を勧告 |
| 助言・指導 | 特定空家等 | 除却・修繕・立木竹の伐採などの措置 |
| 勧告 | 特定空家等 | 改善されない場合、猶予期限を付けて勧告 |
| 命令 | 特定空家等 | 正当な理由なく勧告に従わない場合 |
特定空家等とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態など、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいいます。
重要なのは、勧告の段階で税の軽減が外れるという点です。命令や代執行まで進まなくても、影響は出ます。空室が増えて管理が行き届かなくなった建物は、この段階に近づいていく可能性があります。
なお、空家等とは、建築物またはこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるものおよびその敷地をいうとされています。入居者が残っているアパートは、この定義には当てはまりません。ただし、退去が進んで全戸が空になり、その状態が続けば、対象になり得ます。空室が埋まらないまま年数が経過している物件では、いずれ向き合うことになる論点です。
注意:「解体すると税が上がるから、このまま置いておく」という判断は、状態が保たれている間にかぎって成り立ちます。建物の傷みが進み、勧告を受ける段階に至れば、税の軽減は外れたうえに建物の解体も求められることになります。放置は選択肢ではなく、判断の先送りにすぎません。
解体する場合としない場合、数字を並べてお出しします。
解体費用、翌年からの税負担の変化、更地と現況それぞれの売却価格——3つを一枚に整理してご提示します。中立の立場でご説明します。ご相談は無料です。
3つを並べて比較する
解体するかどうかは、次の3つを同じ表に並べると判断しやすくなります。
| 比較する項目 | 解体して更地で売る | 建物を残したまま売る |
|---|---|---|
| 解体費用 | 売主が負担する | 負担しない(買主が見込む) |
| 売却までの税負担 | 特例が外れ、土地の税額が上がる | 状態が保たれていれば特例が続く |
| 買主の層 | 実需・事業者を含めて広がりやすい | 解体を前提とする買主が中心 |
| 価格の見え方 | 更地価格から諸費用を引いた額 | 更地価格から解体費用相当を引いた額 |
ここで大切なのは、解体費用は、どちらの道を選んでも誰かが負担しているという点です。売主が先に払うか、買主が価格に織り込むか——その違いです。ならば「どちらが安く済むか」ではなく、どちらのほうが手元に多く残るかで比べるのが正しい見方になります。
買主が事業者であれば、解体を前提とした価格で買い取ることに慣れています。一方、実需の買主は解体費用の見積りに不安を持つため、更地のほうが検討しやすくなります。想定される買主によって、答えが変わるということです。
加えて、時期の問題があります。固定資産税は毎年1月1日時点の状況で課税されるため、年内に解体するか年明けに解体するかで、翌年度の扱いが変わります。解体の時期は、工事の都合だけでなく、この基準日も踏まえて決めることになります。売却の見通しが立っていない段階で先に解体してしまうと、更地の状態で税負担が上がったまま、売れるまで持ち続けることになりかねません。
この点から言えば、買主のあてがついてから解体するのが基本の考え方です。「更地にすれば売れるだろう」という見込みで先に工事を始めると、費用と税負担の両方を抱えたまま時間だけが過ぎていきます。
第三の選択肢
解体するか、そのまま売るか——この二択で考えがちですが、実際にはもう少し幅があります。
ひとつは建物を修繕して貸し続ける道です。外壁や屋根、給排水設備に手を入れ、稼働を回復させてから売れば、収益物件としての評価で売却できます。修繕費用と、それによって回復する賃料収入を比較して判断します。修繕の履歴が評価に与える影響は修繕履歴が査定額に与える影響で解説しています。
もうひとつは買主に解体を委ねたうえで、条件を契約に落とし込む方法です。引渡し後に買主が解体する前提で価格を決め、その旨を契約書に記載します。売主は解体費用を用意する必要がなく、更地渡しよりも早く手放せることがあります。
いずれの道を選ぶにしても、建物の状態を客観的に把握しておくことが出発点です。修繕して使えるのか、それとも構造的に難しいのか。ここが曖昧なまま議論を進めると、結論が出ません。
入居者がいる場合
アパートに入居者が残っている場合、話は変わります。解体するには全戸の退去が必要で、そのための交渉と時間、立退料の負担が生じます。借家人には借地借家法による保護があり、貸主の都合だけで契約を終わらせることはできません。
この場合、入居者がいる状態のまま売るという選択肢を先に検討してください。収益物件として買う買主にとっては、稼働している状態のほうが評価しやすいこともあります。空室が多い物件の売却は空室がある一棟アパートは売却できるかで整理しています。
退去を進めてから売る場合は、その期間の家賃収入が減り、税負担は変わらないという状態が続きます。時間をかけるほど手残りが減っていくため、開始前に期間の見通しを立てておく必要があります。
残っている入居者が1戸か2戸かによっても、進め方は変わります。残り少ない場合は、退去の完了を待ってから売るほうが結果的に有利なこともあります。一方、半数以上が入居している状態であれば、稼働している収益物件として売るほうが自然です。「何戸残っているか」で方針を切り替えると考えてください。
判断の前に確認すること
数字を並べる前に、確認しておきたいことがあります。1つ目は解体費用の見積りです。建物の構造、面積、前面道路の幅員、隣家との距離によって金額は変わります。重機が入れない立地では手作業の割合が増え、費用も期間も変わります。複数社から見積りを取り、内訳まで確認することをおすすめします。
2つ目は更地にした場合の土地の税額です。市区町村の資産税の窓口で確認できます。課税明細に記載された土地の価格を持参して、特例が外れた場合にどうなるかを尋ねてみてください。概算であれば、その場で教えてもらえることがあります。
3つ目はその土地に何が建てられるかです。用途地域、建ぺい率、容積率、接道の状況によって、更地にしたあとの使い道が決まります。再建築ができない土地であれば、更地にする意味は小さくなります。解体してから気づくと、取り返しがつきません。接道が2メートル未満で再建築ができない土地は、更地にすると隣地の所有者以外に買主が見つかりにくくなります。建物が建っている状態であれば、既存の建物として使う道が残ります。
とくに、古い時期に建てられた建物では、現在の基準では同じ規模の建物を建てられないことがあります。建ぺい率や容積率、斜線制限などが変わっているためです。この場合、更地にすることで土地の使い道が現行基準まで縮むことになります。役所の建築指導課で確認できますので、判断の前に調べておいてください。
4つ目は相続で取得した場合の期限です。要件に当てはまれば譲渡所得の特別控除を使える可能性があり、その場合は売却の期限があります。相続した実家であれば相続した実家(空き家)を売る前に確認する特例もあわせてご覧ください。
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よくあるご質問
税率や特例の適用は市町村の条例により異なる場合があります。個別の税額・手続きは市区町村または税理士にご確認ください。
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