収益物件は贈与・相続・売却のどれで承継するか
- 収益物件を次の世代へ渡す方法は、生前に贈与する、相続で引き継ぐ、売却して現金にする——大きく3つです。
- 相続時精算課税は、原則60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与で選択でき、年110万円の基礎控除と限度額2,500万円の特別控除があります。
- 暦年課税では、相続等で財産を取得した人が加算対象期間内に受けた贈与財産が、相続税の課税価格に加算されます。
- 収益物件の贈与は、その後の家賃収入も受贈者に移ります。物件そのものではなく、収入の流れをいつ誰に移すのかで考えると、判断しやすくなります。
アパートやマンションを保有している方から、「子どもに渡すべきか、それとも売って現金にすべきか」というご相談をいただくことがあります。どれが正解と決まっているわけではなく、物件の状態と、家族それぞれの事情によって答えは変わります。本記事では、判断するために必要な制度の枠組みを、順を追って整理します。なお本記事は一般的な説明であり、個別の税額・適用は税理士にご確認ください。
3つの道
収益物件の承継を考えるとき、選択肢は次の3つに整理できます。
| 方法 | 移るもの | 主な検討点 |
|---|---|---|
| 生前に贈与する | 物件の所有権と、その後の家賃収入 | 贈与税、登録免許税・不動産取得税 |
| 相続で引き継ぐ | 物件と、それまでの蓄積 | 相続税、遺産分割、納税資金 |
| 売却して渡す | 売却代金(現金) | 譲渡所得税、手残り、分けやすさ |
このうち3つ目が、見落とされがちです。不動産のまま渡すことだけが承継ではありません。相続人が複数いて分けにくい、誰も経営を続ける意思がない——そうした場合は、現金化してから渡すほうが結果的にもめにくいことがあります。
また、これらは排他的な選択でもありません。複数棟を保有しているなら、経営を続ける子には物件を渡し、そうでない子には売却代金を渡すという組み合わせもあります。「全部を同じ方法で渡す」と決めてかかると、選択肢を狭めます。物件ごと、相続人ごとに分けて考えられるかどうかが、実務では効いてきます。
相続時精算課税という選択
生前贈与を考えるとき、まず知っておきたいのが相続時精算課税です。原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度です。
計算は、特定贈与者ごとに、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円を控除し、そこからさらに特別控除額(限度額2,500万円、前年以前に控除していればその残額が限度)を控除した後の金額に、一律20パーセントの税率を乗じて算出します。
この制度を選ぶには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、一定の書類を添付した相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。制度は贈与者ごとに選択できますが、一度選択すると、その贈与者からの贈与について取りやめることはできません。父からの贈与で選択し、母からの贈与では暦年課税を続ける、といった使い分けは可能です。
注意:相続時精算課税は「税金がかからなくなる制度」ではありません。名称のとおり、相続のときに精算する仕組みです。贈与した財産は相続税の計算に取り込まれます。税を減らす制度ではなく、渡す時期を早める制度だと理解してください。そのうえで、賃料収入を早く移せることに意味があるかどうかで判断します。
暦年課税と加算
もうひとつが暦年課税です。こちらは年間110万円の基礎控除の範囲で贈与を重ねていく方法として知られていますが、相続との関係を押さえておく必要があります。
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときは、その贈与時の価額が相続税の課税価格に加算されます。
なお、相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合、加算対象期間内に取得した財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外については、贈与時の価額の合計額から総額100万円までは加算されないとされています。
つまり、亡くなる直前に慌てて贈与しても、相続税の計算では戻ってくるということです。暦年課税を使うなら、時間をかけて計画的に進めることが前提になります。
渡す場合と売る場合、両方の数字を出します。
贈与した場合、相続まで持った場合、売却した場合——それぞれの税負担と手元に残る金額を一枚に整理してお渡しします。判定に迷う部分は提携税理士と確認しながら進めます。ご相談は無料です。
収益物件ならではの論点
ここまでは一般的な贈与の話です。収益物件の場合、さらに考えるべき点があります。
1つ目は家賃収入も一緒に移るという点です。物件を贈与すれば、その後の家賃は受贈者のものになります。贈与した側の所得は減り、受贈者の所得は増えます。所得税は累進で計算されるため、誰の所得として受け取るのが有利かという観点が出てきます。
2つ目は将来の蓄積を移せるという点です。物件を持ち続ければ、家賃収入は現金として手元に積み上がり、それも相続財産になります。早い段階で物件を渡せば、その後に生まれる収入は最初から次の世代のものになります。
3つ目は借入がある場合の扱いです。借入付きの物件を贈与すると、債務も引き受けてもらう形になり、扱いが変わることがあります。金融機関の承諾も必要になるため、事前の確認が欠かせません。残債のある物件は、単純な贈与として扱えないことがあると考えてください。残債と売却の関係はローン残債がある一棟アパートを売る方法で解説しています。
4つ目は渡したあとの管理体制です。物件の所有者が変わっても、入居者との契約、管理会社との関係、修繕の判断は続きます。受け取った側が遠方に住んでいる、本業が忙しい、経営の経験がない——そうした事情があれば、所有権を移しただけでは運営が回りません。誰が実務を担うのかまで決めておかないと、渡した先で物件が傷んでいきます。
5つ目は登録免許税と不動産取得税です。贈与による所有権移転では、相続の場合と税率が異なります。相続では課されない不動産取得税も、贈与では対象になります。贈与税だけを見て判断すると、これらの負担が抜け落ちます。金額は物件の評価額によって変わるため、事前に確認しておいてください。
評価額と時価の差
不動産を渡す方法が検討される理由のひとつが、相続税や贈与税の計算に使う評価額と、実際に売買される価格との違いです。土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基礎に評価します。路線価は公示価格の8割程度、固定資産税評価額は7割程度を目安に定められており、市場で成立する価格より低く出るのが通常です。
さらに、賃貸に供している場合は貸家や貸家建付地としての評価となり、自用の場合とは異なる扱いになります。この差こそが、不動産のかたちで資産を持つことの意味とされてきた部分です。
ただし、この差を目的にして判断すると、順序が逆になります。評価が下がっても、収益が上がらない物件、修繕の負担が大きい物件を抱え続けることが有利とは限りません。評価の話は、あくまで比較材料のひとつとして扱ってください。相続税評価の考え方は相続したアパートの相続税の考え方で整理しています。
どう比べるか
3つの道を比べるとき、次の観点で並べると整理しやすくなります。
| 観点 | 贈与 | 相続 | 売却 |
|---|---|---|---|
| 時期 | 自分で決められる | 決められない | 自分で決められる |
| 分けやすさ | 物件単位で渡す | 分割協議が必要 | 現金なので分けやすい |
| その後の収入 | 受贈者のものになる | 相続まで自分のもの | 収入は終わる |
| 管理の負担 | 受贈者へ移る | 相続まで自分 | なくなる |
| 主な税 | 贈与税・登録免許税等 | 相続税 | 譲渡所得税 |
この表で判断が分かれるのは、受け取る側に経営を続ける意思と能力があるかどうかです。意思があるなら贈与や相続で渡す意味があります。ない場合、物件のまま渡しても、結局は売却することになります。それなら、状態を把握している自分の代で整理するほうが、条件を整えて売れます。
意思の確認は、早いほうが結果的に良い方向に働きます。「継いでくれるだろう」と考えていた側と、「自分は継がない」と思っていた側の認識がずれたまま相続を迎えると、選択肢が限られた状態で判断することになります。聞きにくい話ほど、時間に余裕があるうちに一度確かめておく——これが実務での実感です。
親から引き継いだ経営をどう整理するかは親から引き継いだアパート経営を整理する判断軸、家族への説明の仕方は相続した収益物件の売却を家族に説明する伝え方もあわせてご覧ください。
売却を選ぶ場合の手残りも、お出しします。
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検討の順序
制度から入ると迷います。おすすめは、次の順で考えることです。
まず受け取る側の意思を確認します。経営を続けたいのか、続けたくないのか。ここが決まらないまま制度の比較をしても、結論は出ません。次に物件の状態を見ます。修繕の見込み、空室の状況、借入の残高。渡す価値のある資産なのか、負担を渡すことになるのかが分かれます。
そのうえで数字を出します。贈与した場合の税、相続まで持った場合の税、売却した場合の手残り——3つを並べて初めて、制度の選択が意味を持ちます。制度を先に決めて、それに合わせて物件をどうするか考える——この順番になると、無理が生じます。
この順序をおすすめする理由は、制度が決めてくれるのは「渡し方」だけで、「渡すべきかどうか」は決めてくれないからです。相続時精算課税を使えるかどうかを調べる前に、そもそも渡すことが双方にとって良いのかを確かめる。この手順を踏むと、迷いが減ります。
また、判断には時間がかかって構いません。暦年課税を選ぶなら年単位の計画が要りますし、相続時精算課税も届出の期限は贈与の翌年です。その場で結論を出さなければならない場面は、そう多くありません。関係する家族と、時間をかけて確かめていけば十分です。ただし、判断を先送りにしているうちに相続が起きれば、選べるのは相続の道だけになります。この点だけは意識しておいてください。
最後に、決めた方向を家族に共有します。渡す側と受け取る側で認識がずれたままだと、手続きの途中で話が止まってしまいます。相談前に整える資料は税理士に相談する前に整える資料で整理しています。
よくあるご質問
本記事は2026年9月1日時点の一般的な説明です。個別の税額・適用は税理士にご確認ください。
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