個人所有の物件を法人へ移すとき|移転方法と税の論点
- すでに個人でお持ちの物件を法人へ移す方法は、大きく「売買」「現物出資」「建物だけ移す」の3つです。
- 移した時点で、個人には譲渡所得税、法人には登録免許税と不動産取得税がかかります。移すこと自体に費用が生じる点が、これから買うのとの決定的な違いです。
- 建物だけを法人へ移し、土地は個人に残す形が実務では多く使われます。この場合、権利金の認定課税を避けるために「土地の無償返還に関する届出書」の提出が要ります。
- 法人税は資本金1億円以下の法人で年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%。所得税は5〜45%の7段階です。この差だけで判断はできません。
個人所有の物件を法人へ移すとは、個人名義で持っている収益物件の所有権を、新たに設立した法人へ移転することをいいます。法人化とは、個人で行っている不動産の賃貸事業を法人の形にすることです。これから買う物件を法人名義にするのは比較的単純ですが、すでに個人で持っている物件を法人へ移すとなると、話が変わります。移す行為そのものが取引にあたり、税と費用が発生するためです。本記事では、移す方法と、そのときに出てくる税の論点を整理します。なお個別の判断は税理士にご確認ください。
移す方法は、大きく3つ
個人から法人へ物件を移す方法には、それぞれ性格の違う3つの形があります。どれを選ぶかで、かかる税も手続きの重さも変わります。
| 方法 | どういう形か | 主な論点 |
|---|---|---|
| 売買 | 法人が個人から物件を買う | 法人側に購入資金が要る。価格が適正か問われる |
| 現物出資 | 物件を出資して株式・持分を受け取る | 手続きが重く、検査役の調査が必要になる場合がある |
| 建物だけ移す | 建物のみ法人へ、土地は個人のまま | 移す金額を抑えられる。無償返還の届出が要る |
実務で多く選ばれるのは3つめの「建物だけ移す」形です。土地を含めて移すと金額が大きくなり、譲渡所得税も登録免許税も不動産取得税も重くなります。建物だけであれば、移す金額を抑えられます。
移した時点で、税と費用が発生する
見落とされやすいのが、移すこと自体にかかるものです。法人化した後の税率差ばかりに目が向きますが、移転時の負担で数年分の節税効果が消えることもあります。
個人側には、譲渡所得税と住民税がかかります。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら30%(住民税9%)、5年を超えると15%(住民税5%)です。取得費が低い物件ほど、移すときの譲渡益が大きくなります。
法人側には、所有権移転の登録免許税と、不動産取得税がかかります。登録免許税の税率は物件と原因によって決まっています。加えて司法書士への報酬、法人設立の費用も要ります。
とくに注意が要るのは、取得費が分からない物件です。購入時の売買契約書が見当たらないと譲渡所得の計算上不利になり、移すだけで想定外の税負担が生じることがあります。法人化を検討し始めたら、まず購入時の資料を探してください。
売買で移すときの価格は、自由には決められない
法人が個人から物件を買う形で移す場合、価格をいくらにするかが論点になります。同族の関係にあるため、当事者どうしで自由に決められそうに見えますが、実際にはそうではありません。
著しく低い価格で移せば、その差額が贈与とみなされたり、法人側で受贈益として課税されたりするおそれがあります。逆に高すぎれば、個人側の譲渡益が膨らみ、法人にとっては過大な取得価額になります。適正な時価で取引することが前提で、その根拠を説明できる状態にしておく必要があります。
根拠として使われるのは、不動産鑑定士による評価、相続税評価額、固定資産税評価額、近隣の取引事例などです。どれを使うかは物件と状況によります。ここは税理士とご一緒に決める部分で、「だいたいこのくらい」で進めると後から問題になります。
また、法人には購入資金が必要です。金融機関から借りるか、個人から貸し付けるか。個人から貸し付ける場合、その貸付金は将来個人の相続財産になります。移した物件の評価は下がっても、貸付金という別の財産が積み上がる形になるため、相続対策として見るときはこの点も含めて考えます。
現物出資という選択肢
現物出資は、物件そのものを出資して、その対価として株式や持分を受け取る方法です。法人が購入資金を用意しなくてよい点が利点です。
ただし手続きは重くなります。出資する財産の価額が適正かを確認するため、原則として裁判所が選任した検査役の調査が必要になります(一定の要件を満たせば省略できる場合があります)。時間も費用もかかるため、実務では売買の形が選ばれることが多いのが実情です。
なお現物出資でも、個人から法人へ資産が移る点は売買と同じです。譲渡があったものとして扱われ、個人には譲渡所得税が生じます。「お金が動かないから税金もかからない」ということはありません。
建物だけ移す場合に必要な届出
建物だけを法人へ移すと、法人が個人の土地の上に建物を持つ状態になります。このとき、法人は個人から土地を借りることになり、借地権の問題が出てきます。
法人が土地を借りて建物を建てた場合、通常は権利金を収受する慣行があるにもかかわらず権利金を収受しないときは権利金の認定課税が行われます。ただし次のいずれかに該当する場合は行われません。
- その土地の価額からみて、相当の地代を収受している場合
- 契約書で将来借地人が土地を無償で返還することが定められており、かつ「土地の無償返還に関する届出書」を借地人と連名で遅滞なく税務署長へ提出している場合
実務では2つめの届出を使う形が一般的です。この届出を出し忘れると、法人に多額の認定課税が生じるおそれがあります。なお相当の地代は、おおむね3年以下の期間ごとに見直しを行う必要があるとされています。手続きは税理士とご一緒に進めてください。
税引後に手元へいくら残るか、提携税理士と確認しながら試算します
移した場合と、個人のまま持ち続けた場合を同じ物差しで並べます。移転時の税と費用も含めた数字でご説明します。ご相談は無料です。
税率だけで判断してはいけない理由
法人化の説明でよく使われるのが税率差です。法人税は資本金1億円以下の法人などで、年800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.2%とされています。一方、所得税は課税所得に応じて5%から45%の7段階です。
この数字を並べると、所得が大きいほど法人が有利に見えます。ただし実際の比較では、次の要素が加わります。
| 見落とされやすい要素 | 内容 |
|---|---|
| 移転時の税と費用 | 譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税・司法書士報酬・設立費用 |
| 法人の維持費 | 決算申告の税理士報酬、赤字でもかかる法人住民税の均等割 |
| 社会保険 | 役員報酬を出すと加入義務が生じ、会社負担分が発生する |
| お金の取り出し | 法人に残った利益を個人へ移すには役員報酬か配当が要り、そこにも課税される |
| 融資の条件 | 新設法人は実績がないため、条件が変わることがある |
つまり税率差は判断材料のひとつにすぎません。何年で移転コストを回収できるか、その間に売却や相続の予定がないか。そこまで見て、はじめて判断できます。法人化そのものの全体像は不動産投資の法人化シミュレーションで整理しています。
相続を見据える場合の考え方
法人化が検討される理由は節税だけではありません。相続を見据えたときの分けやすさも、実務では大きな動機になります。
個人で複数の物件を持っていると、相続のときに「誰がどれを引き継ぐか」で意見が分かれます。物件そのものは分割しにくいため、共有名義にして先送りされることが少なくありません。法人が保有していれば、引き継ぐのは株式や持分になり、分けやすくなります。
ただし、法人の株式にも相続税評価があり、評価額が下がるとは限りません。また共有名義を避けられる一方で、株式が分散すれば意思決定が難しくなる点は同じです。「法人にすれば相続が楽になる」と単純化しないでください。共有名義の実際の難しさは共有名義の放置リスクと整理の進め方で整理しています。
移す前に、いまの物件がいくらなのかを確かめる
移転価格の妥当性は、いまの市場価格が分からないと判断できません。無料査定で現在の水準をお出しします。無理におすすめすることはありません。
検討の順番
法人化は、決めてから動くより、確認しながら決めるほうが確実です。次の順で見ていくと、途中で前提が崩れることを防げます。
| 順番 | 確認すること | どこで分かるか |
|---|---|---|
| 1 | いまの課税所得の水準 | 確定申告書・不動産所得の内訳 |
| 2 | 物件の取得費を証明できるか | 購入時の売買契約書・領収書 |
| 3 | 所有期間(年初時点で5年超か) | 登記簿謄本 |
| 4 | いまの物件の価格 | 査定・不動産情報ライブラリ |
| 5 | 移転時にかかる税と費用の合計 | 税理士・司法書士への確認 |
| 6 | 何年で回収できるか | 1〜5をもとにした試算 |
2と3の結果によっては、移転時の税負担が大きくなり、法人化のメリットが出るまでに長くかかることがあります。逆に取得費が高く譲渡益が小さい物件は、移しやすいことになります。同じオーナーでも、物件ごとに結論が変わります。
融資が残っている物件は、先に金融機関へ確認する
借入が残っている物件を法人へ移す場合、金融機関の承諾が要ります。抵当権が設定されたまま所有者だけを変えることは、通常の融資契約では認められていません。無断で移すと契約違反になり、一括返済を求められるおそれがあります。
実務では、法人が新たに融資を受けて個人の借入を完済する形を取ることが多くなります。ただし新設法人には事業の実績がないため、個人のときと同じ条件で借りられるとは限りません。金利が上がる、期間が短くなる、代表者の連帯保証を求められるといった変化が起こり得ます。
この条件次第で、法人化の損得そのものが変わります。税理士に試算を依頼する前に、まず金融機関へ相談してください。借りられる条件が分からないままでは、試算の前提が固まりません。
売却の予定があるなら、順番が変わる
数年以内に売却を考えているなら、法人へ移す前に売ったほうがよい場合があります。移す時点で譲渡所得税がかかり、その後さらに法人が売れば法人税もかかるためです。二重に課税されるわけではありませんが、移してすぐ売ると移転費用が丸ごと無駄になります。
保有を続ける前提があってはじめて、法人化は意味を持ちます。まず「持ち続けるのか、売るのか」を決めてから、法人化を考える。この順番を逆にすると、移転にかかった費用だけが残ることになります。判断に迷われる場合は、持ち続けた場合と売った場合の数字を並べるところから始めてください。
よくあるご質問
- 国税庁 No.5730 権利金の認定課税について
- 国税庁 No.5759 法人税の税率/No.2260 所得税の税率
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算/No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ(不動産取引価格情報)
2026年9月6日時点の内容です。税率と要件は改正されることがあり、個別の適用可否と税額の確定は税理士にご確認ください。
この記事をお読みの方へ
あなたの物件は、いまの相場でいくらか。
査定価格と「税引後の手残り」でお答えします。
代表・井口が直接対応します。しつこい営業はいたしません。
査定後に「持ち続ける」というご判断も歓迎です。