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Zeimu · 税務

資産組み換えで一棟アパートを売る買い替えの考え方

この記事の要点

  • 資産の組み換えは「売って終わり」ではなく、売却と購入をひと続きのものとして設計する考え方です。売却時の税負担が、次に買える金額を左右します。
  • 一定の要件を満たす事業用資産の買換えには、課税を繰り延べる特例があります。ただし非課税ではなく繰延べで、将来の売却時に課税されます。
  • 繰り延べた分は買換資産の取得価額に引き継がれます。取得価額が小さくなるため、保有中の減価償却費も小さくなる点に注意が必要です。
  • 特例には譲渡資産・買換資産の要件、買換えの期間、届出などの条件があります。適用できる前提で計画を組まず、必ず事前に税理士へ確認します。

保有している一棟アパートを売り、その資金で別の物件に買い替える——いわゆる資産の組み換えです。収益が細ってきた物件を手放し、より条件の良い物件へ移すことで、資産全体の効率を上げる狙いがあります。ただし、この判断で見落とされやすいのが税金です。売却時にいくら税金がかかるかで、次に買える金額が変わるためです。本記事では、組み換えを考えるときに押さえておきたい税の論点と、進める順序を整理します。なお本記事は2026年8月4日時点の制度に基づく一般的な説明であり、個別の適用可否・税額は税理士にご確認ください。

組み換えは「売却」と「購入」をひと続きで考える

資産の組み換えでよくある失敗は、売却と購入を別々に考えてしまうことです。「◯◯万円で売れたから、同じくらいの物件を買おう」と考えると、税金や諸費用を差し引いた後の手元資金では届かない、ということが起こります。

売却で手元に残るのは、売却代金からローン残債・譲渡費用・税金を差し引いた金額です。ここに買う側の諸費用(仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、司法書士報酬など)も加わるため、次に買える価格帯は売却価格よりかなり下がります。組み換えを考えるなら、まず「売った後に自由に使える金額はいくらか」を確定させることが出発点です。手取りの計算の考え方はアパート売却の手取り計算で整理しています。

そもそも、なぜ組み換えるのかを言葉にしておくことも大切です。空室が増えて収益が細ってきた、修繕の負担が重くなってきた、管理の手間を減らしたい、相続を見据えて分けやすい形にしたい——目的によって、次に選ぶべき物件の条件は変わります。「なんとなく新しい物件に替えたい」という動機だけで動くと、税金と諸費用を払って資産規模を縮めただけ、という結果にもなりかねません。組み換えは資産を入れ替える作業であって、それ自体が利益を生むわけではない、という前提を押さえておいてください。

とくに影響が大きいのが譲渡所得税です。個人の場合、所有期間によって長期20.315%・短期39.63%と税率が約2倍変わります(国税庁 No.3208同 No.3211)。判定は売却した年の1月1日時点で行うため、売却時期によって次に買える金額が大きく変わることもあります。詳細は一棟アパート売却の譲渡税をご覧ください。

事業用資産の買換え特例とは

組み換えを税制面から支える仕組みが、事業用資産の買換えの特例です。一定の要件を満たして事業用資産を売却し、別の事業用資産に買い換えた場合、譲渡益の一定割合について課税を将来に繰り延べられます国税庁 No.3405)。

最も重要な注意:この特例は非課税ではなく「課税の繰延べ」です。繰り延べた分の税金が消えるわけではなく、買い換えた資産を将来売却したときに課税されます。「特例を使えば税金がかからない」という理解は誤りで、支払う時期を先送りする制度だと捉えてください。

繰り延べられる割合は、譲渡資産と買換資産の組み合わせによって定められています。また、買換資産の取得時期、事業への供用、届出など複数の要件があり、そのすべてを満たす必要があります。要件は細かく、組み合わせによって扱いが変わるため、「使えるはず」という前提で資金計画を組むのは危険です。売却を検討し始めた段階で、適用の可否を早めに税理士へ確認してください。

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繰延べの効果を数字で見る(例示)

課税の繰延べがどのくらい効くのか、考え方を数字で見てみます。以下は仕組みを示すための例示で、繰延割合が80%となるケースを仮定した単純化した計算です。

項目 特例を使わない 特例を使う(繰延80%と仮定)
売却価格 8,000万円 8,000万円
取得費(減価償却後) 3,000万円 3,000万円
譲渡費用 300万円 300万円
譲渡所得 4,700万円 4,700万円
当年の課税対象 4,700万円 940万円(20%相当)
税額(長期20.315%) 約954.8万円 約191.0万円
当年の差 約763.8万円の軽減

当年だけを見れば約763.8万円の差が出ます。この分だけ手元資金が厚くなり、次に買える物件の選択肢が広がるのが特例の効果です。ただし繰り返しになりますが、繰り延べた約763.8万円分の課税は消えていません。買い換えた物件を将来売るときに、その時点の税率で精算することになります。

見落とされやすい「取得価額の引継ぎ」

買換え特例を使ううえで、当年の税額以上に重要かもしれないのが、買換資産の取得価額が引き下げられるという点です。繰り延べた譲渡益に相当する分だけ、買い換えた物件の取得価額は実際の購入価格より小さく計算されます。

これが効いてくるのが減価償却です。建物の減価償却費は取得価額をもとに計算されるため、取得価額が小さくなれば、保有中の毎年の減価償却費も小さくなります。減価償却費は経費として所得を圧縮する働きがあるので、その効果が薄まるということです。つまり、当年の税負担が軽くなる代わりに、保有している期間中の課税所得は増えやすくなる可能性があります。

さらに、将来その物件を売却するときには、取得価額が小さいぶん譲渡益が大きく出やすくなります。当年・保有中・将来売却時の3つの時点を通して見ないと、有利・不利は判断できません。「今年の税金が減るから使う」という短期的な理由だけで選ぶ制度ではない、という点を押さえてください。

特例を使うべきか、使わず売るべきか。数字で比べます。

当年の税負担、保有中の減価償却、将来売却時までを通して、有利な進め方を中立の立場でご説明します。顧問税理士の方を交えたご相談にも対応します。

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3つの時点で有利不利を見る

買換え特例を使うかどうかは、当年だけを見ても判断できません。次の3つの時点を並べて考える必要があります。

時点 特例を使う場合の影響 確認すること
売却した年 課税が繰り延べられ、税負担が軽くなる 手元に残る資金がいくら増えるか
買換資産の保有中 取得価額が小さく、減価償却費も小さくなる 毎年の課税所得がどれだけ増えるか
将来の売却時 取得価額が小さいぶん譲渡益が大きく出やすい その時点で納める税額の見込み

当年の負担が軽くなるのは確かな利点ですが、その分は保有中と将来売却時に戻ってきます。手元資金を厚くして次の物件の選択肢を広げたいのか、長期の総負担を抑えたいのか——どちらを優先するかで結論が変わります。次の物件でしっかり収益を伸ばせる見込みがあるなら当年の資金を厚くする意味がありますし、そうでないなら特例を使わない選択も十分にあり得ます。

組み換えを進める順序

実務では、進める順序を誤ると選択肢が狭まります。おすすめの順序は次のとおりです。

①現状把握今の物件の価格・簿価・残債
②税の確認特例の適用可否を税理士へ
③資金の確定次に動かせる金額を確定

まず現状把握です。今の物件がいくらで売れそうか、取得費(法人なら帳簿価額)はいくらか、ローン残債はいくらかを揃えます。次に税の確認。譲渡所得の見込みと、買換え特例が使えるかを税理士に相談します。そのうえで資金の確定——売却後に自由に使える金額と、借入を含めた購入可能額を出します。ここまで固めてから、買う物件を探し始めるのが安全です。予算の上限が決まっていれば、物件探しの精度も上がり、条件に合わないものに時間を使わずに済みます。

順序を逆にして、先に買いたい物件を決めてしまうと、資金が足りない、特例が使えない、売却が間に合わないといった問題が後から出てきます。とくに買換え特例には取得時期の要件があるため、売却と購入のタイミングを事前に設計しておく必要があります。売るか持ち続けるかの判断そのものは収益物件は売るべきか持ち続けるべきかもあわせてご覧ください。

現実には、売却と購入がきれいに揃わないこともあります。良い買い替え先が先に見つかったのに手元資金が足りない、逆に売却が決まったのに条件に合う物件が見つからない、といった状況です。前者はつなぎの資金をどうするか、後者は資金を一時的にどう保有するかという判断になります。いずれも借入や税の期限が絡むため、独断で動かず、金融機関と税理士に早めに相談してください。組み換えは複数の当事者と期限が同時に動く取引なので、進行を管理してくれる相手がいるかどうかで結果が変わります。

法人で保有している場合

法人保有の物件を組み換える場合は、考え方が変わります。法人には個人のような分離課税がなく、売却益はその事業年度の他の損益と合算されます。そのため、同じ年度に大きな費用が計上される見込みがあれば、売却益が圧縮される可能性があります。

また、法人でも事業用資産の買換えに関する制度がありますが、要件や効果は個人と同じではありません。決算期との関係、繰越欠損金の有無、簿価と売却価格の関係を含めて検討する必要があります。法人での売却の考え方は法人保有の一棟アパートを売る前に見るべき税と数字で整理しています。個人・法人のどちらであっても、組み換えの計画は税理士と並走して進めるのが確実です。

最後に整理すると、組み換えで見るべきは「売却価格」ではなく「売却後に動かせる金額」、そして「当年の税負担」ではなく「保有中と将来売却時まで含めた総負担」です。特例は使えれば当年の資金を厚くできますが、その効果と引き換えに保有中の減価償却が小さくなり、将来の譲渡益が大きく出やすくなります。どちらが自分の計画に合うかは、次にどんな物件を、どのくらいの期間持つつもりかによって変わります。数字を並べて比べたうえで、税理士と相談しながら決めてください。

よくあるご質問

買換え特例を使えば、税金はかからなくなりますか?
かからなくなるわけではありません。この特例は「課税の繰延べ」で、非課税ではありません。繰り延べた分の税金は消えず、買い換えた資産を将来売却したときに課税されます。支払う時期を先送りする制度だと理解してください。要件も細かいため、適用可否は必ず事前に税理士へご確認ください。

特例を使うと、他に不利になる点はありますか?
買換資産の取得価額が引き下げられる点に注意が必要です。取得価額が小さくなると、建物の毎年の減価償却費も小さくなり、経費として所得を圧縮する効果が薄まります。また将来売却するときには、取得価額が小さいぶん譲渡益が大きく出やすくなります。当年・保有中・将来売却時の3時点を通して判断してください。

組み換えは何から始めればよいですか?
現状把握からです。今の物件がいくらで売れそうか、取得費(法人なら帳簿価額)はいくらか、ローン残債はいくらかを揃えます。次に譲渡所得の見込みと特例の適用可否を税理士に確認し、そのうえで売却後に動かせる金額を確定させます。買う物件を探すのはその後です。順序を逆にすると資金や期間が合わなくなります。

売った金額と同じくらいの物件を買えますか?
通常は難しくなります。売却代金からローン残債、譲渡費用、税金が差し引かれ、さらに購入時にも仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、司法書士報酬などがかかるためです。借入を使う場合は融資の条件にもよります。「売却価格=次に買える価格」ではないため、手元に残る金額を先に確定させることが大切です。

法人で保有している場合も同じ考え方ですか?
異なります。法人には個人のような分離課税がなく、売却益はその事業年度の他の損益と合算されます。同じ年度に大きな費用があれば売却益が圧縮される可能性があり、決算期との関係も検討事項になります。法人でも買換えに関する制度はありますが、要件や効果は個人と同じではないため、税理士へご確認ください。

売却と購入は、どちらを先にすべきですか?
買換え特例には買換資産の取得時期に関する要件があるため、売却と購入のタイミングは事前に設計しておく必要があります。先に購入を決めてしまうと、売却が間に合わない、資金が足りない、特例の要件を外れるといった問題が生じかねません。順序と期限を含めて、税理士と相談しながら計画してください。

出典国税庁 No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(いずれも2026年8月4日確認)。本記事の金額は仕組みを示すための例示で、繰延割合や適用要件は譲渡資産・買換資産の組み合わせにより異なります。個別の適用可否・税額は税理士にご確認ください。

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監修 — 井口 忠二
株式会社アスパートナー 代表取締役 / 相続対策専門士・公認不動産コンサルティングマスター

明治大学商学部卒業、グロービス経営大学院修了(MBA)。大手不動産会社で東京23区トップセールス2年連続受賞。2017年アスパートナー設立。取引実績120億円超・成約800件超。福岡市7区に特化した投資用不動産・相続対策の専門家。

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