一棟アパート売却の譲渡税|短期5年で税率が変わる注意点
- 一棟アパートを売った利益(譲渡所得)にかかる税率は、所有期間で変わります。長期譲渡は20.315%、短期譲渡は39.63%です(2026年8月4日時点)。
- 判定は「売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているか」。売却日ではないため、実際には5年以上持っていても短期になることがあります。
- 譲渡所得は「収入金額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額」で計算します。建物の取得費は減価償却後の金額を使います。
- 手元に残る現金は、税額とは別の計算です。取得費は課税所得の計算に使うもので、手残りの計算で現金支出として重ねて引かないよう注意します。
一棟アパートを売るとき、手取りを大きく左右するのが譲渡所得税です。とくに影響が大きいのが、所有期間による税率の違いで、長期と短期では税率が約2倍変わります。しかもその判定日は「売った日」ではありません。本記事では、国税庁の資料に基づいて、税率の違いと判定のしかた、譲渡所得と手残りの計算の順序を整理します。仕組みを押さえておけば、売り時の判断材料が一つ増えます。なお本記事は2026年8月4日時点の制度に基づく一般的な説明であり、個別の税額計算・適用可否は税理士にご確認ください。
長期20.315%・短期39.63%の内訳
個人が土地・建物を売って得た譲渡所得は、給与などとは分けて課税されます(分離課税)。税率は所有期間で2区分です。
| 区分 | 所得税(復興特別所得税を含む) | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 15.315% | 5% | 20.315% |
| 短期譲渡所得 | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得の税率は国税庁 No.3208、短期譲渡所得の税率は国税庁 No.3211に定められています。合計で見ると、短期は長期のおよそ2倍です。同じ利益でも、区分ひとつで手取りが大きく変わります。
判定日は「売った年の1月1日」
ここが最も間違えやすい点です。長期・短期の判定は、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えているかで行います。売却した日を基準に「5年経ったから長期」と考えると、判定を誤ります。
たとえば2021年6月に取得した物件を2026年8月に売却した場合、実際の保有期間は5年2か月ですが、判定は2026年1月1日時点で行うため、その時点の所有期間は4年7か月となり短期譲渡です。長期にするには、2027年1月1日を迎えてから売却する必要があります。取得の時期が年の前半である物件ほど、この差が生じやすくなります。売り時を考える際は、契約・引渡しの時期とあわせて、この判定日を必ず確認してください。
この仕組みは、裏を返せば売却時期を少し調整するだけで税負担を抑えられる場合があるということでもあります。判定が短期となる時期に売ろうとしているなら、年明けまで待つことで長期に切り替わり、税率が約半分になる可能性があります。もちろん、待つ間の空室リスク、修繕の発生、相場の変動といった要素もあるため、税率だけで決めるものではありません。それでも、数百万円規模で手取りが変わり得る要素ですから、売却を具体的に検討する段階では必ず確認しておきたい点です。所有期間の起算は、原則として取得した日から譲渡した年の1月1日までで数えます。
売却時の税額と手残りの概算を確かめませんか。
所有期間の判定、取得費の考え方を踏まえて、税引後に手元へ残る概算をお出しします。代表・井口が直接ご説明します。まだ売ると決めていない段階のご相談で構いません。
譲渡所得の計算式
税率をかける前に、課税の対象となる譲渡所得を求めます。基本の式は次のとおりです。
譲渡所得 = 収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額
収入金額は売却代金です。取得費は購入代金や購入時の仲介手数料などで、建物部分は減価償却費相当額を差し引いた金額を使います。譲渡費用は売却のためにかかった仲介手数料、印紙税などです。特別控除額は、居住用財産の特例など要件を満たす場合に差し引くもので、純粋な投資用の一棟アパートでは通常は該当しません。計算の全体像は国税庁 No.3202で確認できます。
なお、取得時の契約書が見つからず取得費が分からない場合は、収入金額の5%を概算取得費として用いることができます(実額が判明していても、それが5%を下回るときも同様です)。自動的に5%に決まるわけではないため、まずは契約書や当時の資料を探すことをおすすめします(国税庁 No.3258)。譲渡所得税の基本は不動産の譲渡所得税でも解説しています。
計算例:長期と短期でいくら変わるか
数字で見てみます。以下は計算方法を示すための例示です。
| 項目 | 金額(例示) |
|---|---|
| 売却価格(収入金額) | 5,000万円 |
| 取得費(建物は減価償却後) | 3,000万円 |
| 譲渡費用 | 200万円 |
| 譲渡所得 | 1,800万円 |
| 税額(長期20.315%) | 約365.7万円 |
| 税額(短期39.63%) | 約713.3万円 |
| 差額 | 約347.7万円 |
譲渡所得は「5,000万円−(3,000万円+200万円)=1,800万円」です。これに税率をかけると、長期は約365.7万円、短期は約713.3万円となり、差は約347.7万円です。売却時期が数か月違うだけで、この差が生じることがあります。実際の税額は、減価償却費の計算、取得費の確定、その他の所得との関係などで変わるため、必ず税理士にご確認ください。なお、譲渡所得が赤字(譲渡損失)になった場合、投資用不動産では原則として給与所得などとの損益通算はできません。売却で損が出れば必ず税負担が軽くなる、というわけではない点にも注意が必要です。
税額と「手残り」は別の計算
ここも誤解が多い点です。税額の計算に使う取得費と、手元に残る現金の計算は別物です。手残りは、実際の入出金で考えます。
手残りの目安 = 売却代金 − ローン残債 − 譲渡費用 − 税額
注意:手残りの計算で、取得費を現金支出として重ねて差し引かないでください。取得費は過去に支払ったもので、売却時の出金ではありません。上の例(売却5,000万円・残債2,000万円・譲渡費用200万円・長期税365.7万円)なら、手残りの目安は約2,434万円です。ここから取得費3,000万円をさらに引くと大幅な過小計算になります。取得費は「課税される所得を求めるため」に使う数字だと整理してください。
短期譲渡だった場合は税額が約713.3万円となるため、同じ条件でも手残りの目安は約2,087万円まで下がります。手取りの計算全体はアパート売却の手取り計算で詳しく整理しています。
なお、上記はあくまで目安です。実際にはこのほかに、固定資産税・都市計画税の日割り精算、賃料や敷金の引き継ぎ精算、抵当権抹消の登記費用、司法書士報酬などの入出金が発生します。買主から受け取るもの、買主へ引き渡すものが混在するため、最終的な手残りは決済時の精算書で確定します。売却の判断をする段階では「売却代金−残債−譲渡費用−税額」で大枠をつかみ、契約が近づいたら精算項目を含めて詰めていく、という順序で考えると分かりやすくなります。
建物の取得費は減価償却後の金額
一棟アパートの取得費でとくに注意したいのが、建物部分は購入時の金額そのままではないという点です。建物は使用や時の経過によって価値が減っていくため、保有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費になります。一方、土地は減価償却の対象ではないため、購入時の金額がそのまま取得費の基礎になります。
この扱いにより、長く保有した物件ほど建物の取得費は小さくなり、その分だけ譲渡所得が大きく出やすくなります。「買ったときより安く売るのに税金がかかる」という状況が起きるのは、多くがこの理由です。売却価格だけを見て「損したから税金はかからない」と考えるのは誤りで、必ず減価償却後の取得費で計算する必要があります。
減価償却費の計算には、建物と土地の価格の内訳、構造、取得時期、償却方法などが関わります。購入時の売買契約書に建物価格の記載があるか、これまでの確定申告で減価償却をどう計上してきたかが手がかりになります。計算は専門的で、償却方法や取得時期によって結果が変わるため、実際の金額は税理士に確認するのが確実です。
相続で引き継いだ物件の扱い
相続や贈与で取得した不動産は、原則として被相続人(親など)の取得時期と取得費を引き継ぎます。そのため、自分が相続してから日が浅くても、親が長く保有していれば長期譲渡となることがあります。相続物件を売る際は、まず親の取得時期と、購入時の契約書の有無を確認してください。
また、相続税を納めた人が一定期間内に売却した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。対象や期限には要件があるため、適用の可否は国税庁 No.3267を確認のうえ、税理士にご相談ください。相続物件の売却で焦らないための考え方は相続不動産を焦って売る前にもあわせてご覧ください。
申告と準備しておくもの
譲渡所得が生じた場合は、売却した年の翌年に確定申告を行います。申告先は物件の所在地ではなく、自分が住んでいる住所地を管轄する税務署です。申告期間は原則として翌年2月16日から3月15日までですが、年により土日等で前後します。
準備しておきたいのは、購入時の売買契約書、購入時の諸費用の領収書、建物の減価償却の計算に使う資料(確定申告書の控えなど)、売却時の売買契約書と仲介手数料等の領収書です。とくに購入時の契約書は取得費を証明する最重要の資料で、これがないと概算取得費によることになり、税負担が重くなる場合があります。売却を考え始めたら、早めに探しておいてください。
相続で引き継いだ物件では、この資料探しがとくに重要になります。親が保管していた売買契約書が見つかるかどうかで、取得費が実額になるか概算になるかが分かれ、税額に大きな差が出ることがあるためです。親の自宅に残っている書類、取引した不動産会社や金融機関の記録、過去の確定申告書の控えなど、たどれる先はいくつかあります。すぐに見つからなくても、諦める前に一通り当たってみる価値があります。売却前に整えるべき資料はレントロール整理術もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
出典国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算/国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算/国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた/国税庁 No.3258 取得費が分からないとき/国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(いずれも2026年8月4日確認)。本記事の金額は計算方法を示すための例示です。個別の税額・適用可否は税理士にご確認ください。
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